Khruangbin/The Universe Smiles Upon You II (2xLP")
LTD. White Vinyl
Khruangbinは、自分達が実際にアルバムを作っているのかどうかさえ分からなかった。2025年の極寒の初日、彼らがほぼ全ての楽曲を録音してきたテキサス州中部の納屋で震えながら知っていたのは、着実にデビュー作”The Universe Smiles Upon You”の10周年が近づいているということだけでした。数ヶ月前、彼らはこの記念すべき年をどう祝うか、オーケストラ編曲か、ボーナス音源や別テイク集をどうするかなど、あれこれと話し合っていた。問題は、Khruangbinがセミインストゥルメンタルで穏やかでサイケデリックなアメリカン・ミュージックという新しい現代的な表現を確立する以前には、ボーナス音源も未使用曲も存在しなかったということです。そもそも、本質的なヴァイブ、無限のグルーヴ、地平線に波打つリフといった、バンドの美学が極めてストレートで純粋な美学を掲げるバンドにとって、別テイクやシンフォニックな贅沢さなど、果たしてどれほど興味深いものだったのでしょうか ? 彼らは代わりにこう考えたのです。全てが始まったあの納屋に戻り、そのレコーディングから10年目の記念日に、全てを始動させたあのレコードを再録音するのはどう ? 彼らはとにかく、試してみたのです、、、
Laura Lee、Mark Speer、そしてDJ Johnsonは、このアイデアが実に良いものだと直ぐに気づいた。過去10年間で形作られた初期の楽曲群を鏡に映すことで、自分達が人間として、そして演奏者としてどのように変化したかを肌で感じ、耳で確かめることが出来たのです。その結果生まれたのがこのアルバム”The Universe Smiles Upon You ii”、Khruangbinの最も古いアルバム収録曲を、当時の彼らに明確に忠実である必要はなく、今の彼らに相応しい演奏と構成で、10曲すべてを全く新しい解釈でカヴァーした作品です。例えば、注意深く聴けば、2015年のボーナストラック”Bin Bin ii”が今作の中心へと近づいていることに気づくでしょう。そして更に重要なのは、注意深く耳を澄ませば、Khruangbin自らの成功によって生み出されたあらゆる期待からいかに解放されたサウンドで、そしてこれが再び、長年の友人である三人がリアルタイムでこの楽曲をどう展開させていくかを決めているサウンドであることに気づきます。
納屋はKhruangbinの伝承に欠かせないものです。2009年、Khruangbinの初期シングルが彼らの軌跡を形作り始める何年も前、いや彼らが正式にバンドとして活動する以前から、彼らは納屋へ向かい始めています。その納屋は、ヒューストンとオースティンの中間地点にある質素な牧場で、Speerの両親が1980年代に購入したものです。ヒューストンでリハーサル場所を探していたところ、Speerの両親がその場所と、一階に寝室が三つ、二階には寮風の二段ベッドが並び、小さなキッチンには100年前の古いストーブ置かれている隣の小さな家を提供してくれました。2015年1月に彼らがそこに集まり、のちのアルバム”The Universe Smiles Upon You”となる作品を制作する際、蜂が苦手で有名なJohnsonが到着する前に、SpeerとLeeはベースを弾きシンバルを激しく叩いて蜂の巣を急いで取り除いています。その制作プロセスは完璧なDIY精神に満ちており、彼らはたった1500ドルでこのレコードを完成させたのです。
今回、Khruangbinはいくつかの機能的なアップデートを試みています。彼らは遂に、20年近く前に結婚式の為に設置されたものの、それ以来、残された機材を必ず破壊する生き物達の聖域と化していた合板のダンスフロアを撤去したのです、彼らは新しいフロアを借り、次に静音タイプの新しいスペース・ヒーターと、セッション中に手袋に詰め込むカイロの箱を購入しました。初日はテキサス中部の楽園でした、1月なのに半袖で楽器をセットし、ケーブルを配線する間も太陽が輝き、ここに収録された”Two Fish and an Elephant”の7分バージョンも録音しています。LeeとJohnsonが築いたリズムが、Speerの煌めくリードに温かなハグを添えています。しかし、やがて寒さが襲ってきたのです。あまりに厳しい寒さに、彼らは納屋内のあらゆる隙間や裂け目に、建設現場の残骸を詰め込み、四日が経つ頃には、彼らはまるで互いの放射熱を吸収しようとするかのように、どんどん近づいて行きました。
恐らく、だからこそ”The Universe Smiles Upon You ii”はこんなに温かみを感じさせるのでしょう。まるで彼らが一緒に演奏するだけで、火を焚いているかのようです。”August Twelve ii”の冒頭、Johnsonは納屋のすぐ外でヒガシマキバドリが歌っているのを目にし、その歌声はマイクに拾われていました。彼らの最高の演奏では無かったのですが、その歌声がその場所と時間の魔法を捉えていると分かっていた。黄色い美しい鳥の旋律が、この6分間の美しい音楽に秩序を与えています。”People Everywhere (Still Alive)”、この非常に長いテイクも同様に歓喜に満ちています。10年にわたるツアーで学んだテンポ、勢い、ダイナミクスの教訓を活かして、このダンスパーティーを始動させ、持続させています。それは正に、その瞬間を完璧に描き出した地図なのです。
面白いことに、Speerはここ数年、このエレクトリック・トリオでツアーを共にする中、音量が大きくなくとも豊かな響きを奏でる初期ヨーロッパの楽器、例えばヴィオル・ダ・ガンバやクラヴィコードに魅了され、彼はその情熱をセッションにも持ち込み、Leeのホロウ・ボディのヘフナー・ベースやJohnsonのブラシ・ドラムに合わせてアコースティック・ギターを演奏するだけでなく、楽器にコンタクト・マイクを装着することで、より近く、よりリアルな響きを実現しています。その探求心は”White Gloves ii”に明確に聴き取れます。この楽曲はKhruangbin定番の曲で、当初彼らはどのようにリメイクするかに苦悩したようです。しかし、Johnsonが”カントリー・ディスコ”風にすることを提案すると、突如として解き放たれ、田舎風のファンク調の軽快なリズムが、ほろ苦いボーカルと薄明かりのギターを支え、その音響はあたかも納屋の真ん中に座り、ベースアンプとバスドラムの間で頭を押し付けながら、Khruangbinが漂い去っていくような感覚にさせてくれます。
多くの意味で、”The Universe Smiles Upon You ii”はKhruangbinの第一章の終わりを象徴するものです。2015年1月に彼らがこの納屋に辿り着いた時から創り上げてきた音楽の完全な集大成と言えるでしょう。過去10年間で彼らはある種の頂点を極め、タイのポップ、ヘビー・ダブ、アメリカン・ソウル、エチオピアのヘイズへの愛が、数々の素晴らしいレコードとライブショーという形で完璧に結晶化し、巨大な劇場やフェスの観客を同様に魅了してきました。彼らはレッド・ロックスやフォレストヒルズからハリウッド・ボウル、ラジオシティに至るまで、アメリカで最も有名な会場を繰り返し満員にしており、グラストンベリーからボナルーに至るまで数々のフェスティバルも制覇しています。そして、Paul McCartneyは彼らに自身の曲をリメイクするよう依頼し、2022年のアルバム”Ali”ではマリの伝説的バンドでありバンドのインスピレーションの源であるVieux Farka Toureレとコラボレーションし、彼の亡き父を称えています。10年以上にわたる精力的なツアーとレコーディングを経て、2024年に発表した彼らの卓越した多言語アルバム”A LA SALA”は、グラミー賞の最優秀新人賞ノミネートに貢献しています。蜂とネズミのいる納屋で1000ドルほどでデビュー作をレコーディングしたバンドとしては、悪くない成果だと思います。
では、次に何が待っているのか ? ”The Universe Smiles Upon You ii”はKhruangbinにとって一息つく機会で、今やすっかり馴染んだサウンドから一歩離れ、これからどこへ向かうのかを考えるきっかけです。彼らは”練習に励むこと”について語り、毎日数時間楽器と向き合い、どんな新たな形を生み出せるか模索しています。Khruangbinの輝かしい次の飛躍は、最初と同じく納屋から始まるでしょう。
あなたは”The Universe Smiles Upon You”の楽曲を通して彼らの世界へと入り込んでいく、、、2度目は、1度目よりも更に心を奪われるに違いない。