Don Glori/Paper Can't Warp Fire (LP")
Mr Bongoは、メルボルン、ナームのマルチ・インストゥルメンタリスト、Don Gloriのサード・アルバム”Paper Can't Wrap Fire”を自信を持って紹介します。現代的でありながらクラシック、親しみやすさと斬新さを兼ね備えたこのアルバムは、アーティストが飛躍的に成長し、その創造力と音楽的なオリジナリティーを存分に発揮した、自信に満ちた3枚目のアルバムで、ジャズ、ソウル、ファンクの世界を融合させ、ジャンルを横断した万華鏡のような冒険です。
新しい方向に舵を切ったDon Glori(別名Gordon Li)は、”Paper Can't Wrap Fire”でソングライティングに真正面から取り組みました。作詞家、そしてバンドリーダーとしての才能を巧みに発揮し、彼はナームというクリエイティブな交差点から集まった仲間たちを率いています。ジャズを基調としたこれまでの作品よりも、ソウル、R&B、ファンク寄りの楽曲が多く収録されてますが、Donの初期の作品に慣れ親しんだファンにとっては、ジャズ・ネタに困る事はありません。
アルバムのタイトルは中国の古いことわざで、大まかに訳すと”真実を否定することは出来ない”という意味です。この根底にある糸は、曲と曲の間に織り込まれています。”多くの曲は、真実の探求と観察、そして人生に布石を打つためにかぶる仮面(それがこのカバーアートの由来です)について歌っています”とDonは言います。例えば、ML Hallのシルキーなリードボーカルをフィーチャーした、センセーショナルなソウル・ソング”Brown Eyes”は、マイノリティな経験を分析し、そのようなコミュニティを築くことの力強さと安らぎを表現しています。他にも、”Disaster”は、アーティスト以外の全員に給仕する仕組みを風刺的に捉え、”Flicker”は内省の末に生まれた真実と明晰さを表現しています。
これらのトラックは、その意味の深さと音楽性のレベルを一致させている点が一際目立っています。Donはこのアルバムで、頭で聴くだけでなく、心に響く曲を書けるアーティストとしての自身の立ち位置を確立しています。煌びやかなジャズの技巧が注ぎ込まれ、それに滋味深いボーカルハーモニーが重なり、瞬時に共感することが出来る人間の魂が力強く響く、まさに旅のような作品です。
夏の暑い2日間、ナーム州コリングウッドのRolling Stock Studiosで録音されたこのアルバムには、Donの友人や家族といったミュージシャンが参加しています。ロンドンに移る前のDonのツアー・バンドのメンバーだったTim Cox、Al Kennedy、Joel Trigg、Robyn Cummins、Lachlan Thompsonのバックボーン・チームと、ML Hall、Ruby Dargaville、Isadora Lauritz、Bianca Kyriacouという豪華なヴォーカリスト達をフィーチャーしています。更に、卓越したトランペッターのAudrey Powne、サックス奏者のJoshua Moshe、そしてブラジリアン・マジックをレコードに散りばめたAlcides Netoもこのアルバムに参加しています。
Azymuth、SAULT、Jordan Rakei、Lynda Dawnといったアーティスト。そして、NTS、Total Refreshment Centreといったロンドンの音楽シーンの中心的存在からの影響を受けながら、Donはそれを実行に移し、身を乗り出して、仮面を被る必要のない、彼自身とその独特の核心部分に真にユニークなレコードを生み出しました。