Various/Midnight in Tokyo Vol.4 (2xLP")
compiled by tsunaki kadowaki artwork by yoshirotten mastering by kuniyuki takahashi
京都のレコード店”Meditations”のスタッフであり、ディスクガイド”New Age Music Disc Guide”の監修者、そしてSad Discoの創設者でもある門脇 綱生が、アンビエント歌謡をテーマにキュレーションした”Midnight in Tokyo”第4弾。Studio Muleによる”Midnight in Tokyo”シリーズは、邦楽に焦点を当て、東京の夜を彩るサウンドトラックとして、ホームリスニング、クラブプレイ、ドライブBGMなど、場所や空間を超越し活躍しています。6年振りに登場した第4弾は、”アンビエント歌謡”を新たな視点として、1977年から1999年にかけてリリースされたジャンルを超えた楽曲をコンパイルし、日本のアンビエントとポップミュージックの交差点を探っています。待望の第4弾となる今回は、レコードレーベルの地位(メジャーかインディーズか)、時代やフォーマット(レコードかCDか)、オリジナル盤の価格、過去のリイシューの有無に関係なくセレクト。 その代わりに、リスナーの心を深く揺さぶり、開放的で、インスピレーションと精神的洞察力に溢れ、日本のアーティストが持つ”歌心”を体現している音楽に焦点を当てています。コンピレーションのオープニングを飾るのは、井上陽水の”海へ帰ろう”です。井上陽水は伝説的な日本のシンガーソングライターで、その作品は近年、ワレアリックでアンビエントなポップの隠れた逸品として再注目されています。作曲・編曲は、井上の名作”氷の世界”の編曲でも知られる星勝が担当。そして、高中正義、乾大樹、井上茂ら名だたるプレイヤーが参加しているバレアリックな地平への憧憬を体現するこの曲は、若々しい躍動感と感傷に満ち溢れています。 続いて、二十絃箏奏者の野坂惠子と沖縄ロックのパイオニアであるジョージ紫によるアルバム”ニライカナイ Requiem 1945”からのインスト曲”折りたたむ海”。タイトルが示すように、鎮魂と追憶をテーマにしており、言葉がなくても詩的なリリシズムが伝わります。 琉球、沖縄のハーモニーと土着的な要素を融合させたこの曲は、親しみやすくノスタルジックなプログレッシブ・ロックとして展開していく。 又、RCサクセションの前身であるザ・リメンバーズ・オブ・ザ・クローバーのギタリストだった武田誠一率いるフォークロックバンド、日暮しの”夏のこわれる頃”も収録。オープニングトラック”海へ向かう”同様、星勝がプロデュースを手掛けたこの曲は、ツイン・コスモスや原マスミのファンにもおすすめの、異次元の世界へと踏み込んだフォーク、ニューミュージック作品です。謎に包まれた作曲家S.R.キノシタが残した唯一の作品、謎めいた”BLUE”から、CD時代の日本のアンビエント、ニューエイジ・シーンの秘宝”マングローブ”が収録されています。オリエンタルでミステリアスな雰囲気を漂わせるこの曲は、奥深く未開のジャングルのような神秘的な世界を想起させ、異次元の世界へと誘うニューエイジ歌謡となっています。Rehabilualの唯一のアルバム”New Child”から選ばれた”Yaponesia Sakura”は、日本のニューエイジ・ミュージックの傑作です。インドの瞑想指導者Oshoの弟子であり、著名なバラフォン奏者でもあるSwami Dhyan Akamoがプロデュースを手掛け、小川美潮(チャクラ)と藤本篤夫(Colored Music)をフィーチャー、彼らの芸術性が融合し、極上のスピリチュアル・アンビエント・ポップ・サウンドを生み出しています。更に、金延幸子のアルバム”Sachiko”のオープニング・フォーク”朝のひとしずく”も収録されています。細野晴臣プロデュースによる伝説のフォークアルバム”み空”で知られる金延幸子の活動再開後で、4枚目のアルバムとなる”Sachiko”は、サンフランシスコでの生活経験から着想を得て、”愛”をテーマに制作されました。 この曲は”み空”と同じような親密な詩的世界を持ち、純粋で結晶のような無邪気さを帯びています。細野晴臣プロデュースによる”テクテクマミー”で知られるシンセ・ポップ・バンド、E.S. Island。彼らの長らく失われていたニューエイジ・クラシック”南風 from Hachijo”から選曲された”夢風鈴”が登場。バンドの中心メンバーが八丈島で生活している間に制作されたこのアルバムは、”島の日常生活のハイでハッピーなバイブレーション”を音で表現する事を目指し、このトラックではダイナミックでトライバルを取り入れたニューエイジ歌謡を体験出来ます。”世界初の民謡ハウス・ミックス”と称される”江差追分-前唄-”は、日本のハウスミュージックのパイオニアである寺田創一と、著名な民謡歌手である金沢明子のコラボレーションによる”金沢明子 HOUSE MIX”に収録されています。日本を代表する民謡の一つである北海道の”江差追分”が、クラブ・ミュージックというプリズムを通して、複雑なサウンド・デザインによる未来的なアンビエント・ポップへと昇華されています。この”Midnight in Tokyo”には、ヴォーカル・アーティストのおおたか静流を中心に1989年から1992年にかけて活動したグループ、ヴォイス・フロム・アジアの楽曲”スウィートンチョー”も収録されています。青山にある複合文化施設Spiralの音楽レーベルNewsicからリリースされた想像力豊かなミニマル作品”Voice From Asia”に収録されているこの曲、民族楽器が豊かに彩る静謐なトライバル・ミニマル・サウンドスケープを提示します。細野晴臣が”彼女の声にはシャーマンが宿っている”と称賛したシンガーソングライター、宝達奈美もこのセレクションに名を連ねています。ヘンリー河原とのコラボレーションで知られる彼女のデビューアルバムには、”朝光雨夢”が収録されており、この曲は現代のボーカロイド、シンセサイザーボーカルミュージックの先駆けとも言える、ポスト・コワールの美学の隠れた逸品であり、再発見に値します。同様に、マライアのメンバーがサポートした秋本奈緒美のアルバム”One Night Stand”に収録されている”Tennessee Waltz”も、ボーカロイド、シンセサイザー・ボーカル音楽の初期のプロトタイプと言えるでしょう。断片的なヴォーカル・サンプル、牧歌的でありながら甘くミニマルなシンセ・サウンド、そして機械的なビートが織り成すこのトラックは、日本の音楽史の中でも際立って型破りな作品です。コンピレーションの最後を飾るのはAutechre、Seefeel、Sun Electricがリミックスを手掛けたNav Katzeの”Gentle&Elegance”収録曲”ヘヴン・エレクトリック”。IDM、アンビエント・テクノ、チルアウトの要素を融合させたこの曲は、宇宙音楽を思わせる楽観主義を体現しながら、神秘的な日本の美学をシームレスに融合させたアンビエント・ポップの傑作と言えるでしょう。このアルバムは、ポスト・ハイパーポップ、Y2Kリバイバルが進む2020年代半ばの移り変わりゆく情景に深く共鳴する、アンビエント感あふれる12曲の極上ポップスを収録。
門脇 綱生(編者)は1993年鳥取県米子市生まれで、京都のレコード・ショップ”Meditations”のスタッフ兼バイヤー。”New Age Music Disc Guide”(DU BOOKS)の編集者であり、”ミュージック・マガジン”、”レコード・コレクターズ・マガジン”、”ele-king”などに寄稿。その他、門脇はBrian Eno、菅谷昌弘など複数の日本盤のライナーノーツを手がけ、ディスクユニオン傘下の音楽レーベル”Sad Disco”の主宰。Spotifyのオフィシャル・ニューエイジ・ミュージック・プレイリストのキュレーターでもあり、2024年にはYCAMのオーディオ・ベースキャンプ#3でDJを務めています。